2019年11月23日土曜日

大量の風船に特小レピーターを付けて飛ばす!「バルーンレピーター実験」。運用結果・見えてきた課題

平塚市で行われたバルーンレピーター実験

2019年11月16日平塚市某所の田んぼにおいて特小レピーターDJ-R100Dを大量のヘリウム風船に懸架し、浮上させ、交信を行う実験を行った。本記事では準備から運用そして得られた結果をまとめていこうと思う。

コンセプト

 本実験は安全設計・法令順守のコンセプトで行われた。
設計は国土交通省の専門部署にあらかじめレピーターの設置方法の立面図を送付し、担当者からの助言を得て行った。結果設計は以下の内容を満たす形でまとまった。

・気球本体の色は気赤色で統一させる
・最高到達高度は149m
・支線中央には0.6m×0.6mの旗を無風状態でも目視出来る形で設置

 これらは国土交通省から求められたもので一つでも満たない場合は高度60m未満で運用しなければならない。 
以下は独自に設けた安全基準

・風船はあえて中型の物を複数個取り付けることで上空で風船が破裂した場合の機材の急激な落下、それによる怪我を防止する。
・レピーターには緩衝材を巻きつける。
・見張りを必ず2人以上交代制で行う。

 これらを満たした設計を行い、右のような立面図を作成、国交省から問題無いとの回答を頂いた。また、運用地は東京航空局に確認し、決定した。

準備

バルーンレピーター実験を行う上で準備が占める割合は活動全体の8割を占めるほどであり、機材の準備以外にも、設計、土地所有者との相談、国交省との数回に及ぶ電話、メールでの設計確認、twitterでの告知、共同で実験を行ったしずおかJG726局との情報共有など活動内容は多岐に渡った。用意した機材は以下の通りである。

用意した機材
ヘリウムガス 1kL
16インチ風船 50枚
8号ナイロン製テグス 500m
小型カメラ
凧用リール
電動リール(かながわLE111局協力)

実験当日

午前2時過ぎから機材運搬、食料調達が始まった。ガスボンベなど重量物はJG726局の原付で運搬、私しずおかAL330とラジオの遠距離受信愛好家のY氏はスーパーで当日の食料を買い揃えた後細かい機材を持って運用地に向かった。


 午前3時には機材が揃った。運用地は一面が田んぼであり、民家等は一切無い為投光機を使い作業を行った。まずは149m丁度に糸を揃え、旗を設置する中間地点に印を付ける作業から始まった。幸いお借りした土地が広大だったため、余裕で直線距離149mが確保出来、糸を計測したのだが、巻き取る作業に苦しめられる事になった。糸が149もある為、少しでも緩むと糸がリールで暴れたり、草に絡みつくのである。最終的に端と端で無線連絡を取り、息を合わせて巻き上げることで綺麗に巻き上げられ、特小を縛りつけ、風船を膨らませる状況になったのは午前6時頃であった。



 若干の休憩を挟んだ後風船の膨らまし、取り付けに掛かった。レピーターは13個目の風船を取り付けた瞬間、ゆっくりと浮き上がった。その後5個程風船を取り付けた所安定して空中に静止するようになり、風もほぼ無風だったため、とりあえず旗の取り付け地点まで上げることにした。

 レピータは安定して上昇し、約2分で旗の取り付け位置まで到達した。
しかし、ここで問題が発生した。旗が上がらないのである。旗は100均のフェルトをサイズに合わせて切り、補強したものを用意したが、旗の重さに加え、準備中に夜露を吸い込んでしまい、重くなってしまった様である。
支線に取り付けるも上がらず


 仕方なくより薄い布を用意、補強し、風船もさらに追加して取り付けるも、上げた瞬間微風でも設備が流される様になった為仕方なく高度59mで運用を行うことになった。この問題については次やる機会があれば要改善である。

 高度59mで気球は非常に安定しており、数局のQSO成立に加え高頻度で各局のカーチャンクと思われる反応が続いていた。午前9時半過ぎ、かながわLE111局現着、電動リールを貸して頂いた他1日実験に協力頂きました。

風に煽られるレピーター

 10時頃リールを電動に換装し、運用を再開しようとしていたその矢先に海側から断続的に風が吹き始め、レピーターを上空に固定する事が困難な状況に陥った。リールを開放している間は風に流されつつも何とか上昇するが、規定の高度に達し、リールをロックすると緩やかに降下していく状況となった。
 



 暫くの間バルーンがギリギリ高度を維持できる長さまで支線を短くし、高度10~20mで運用を行い、その間に昼食をとる事にした。しかし、高度が低い状況でもある程度のカーチャンクがあった様に思われた。

 
一気にリールのロックを解除しレピーターを急上昇させる模様
昼食後何とかしてバルーンを上空59mまで届かせるべく、リールのロックを一気に解除させ、レピーターを上空59mまで急上昇後、高度が下がり始めたら電動リールのパワーに物言わせて一気に接地する前に巻き取る作戦に変更。常時レピーターを上空に留めることは出来ないものの、交信のチャンスは一気に増大、上げる度にカーチャンクが入るようになった。そこで、レピーターが上昇中に現場から「レピーター高度上昇中」などのアナウンスを入れるようにしたところ、それなりの数QSOが成立した。

 この運用方式で午後5時まで運用が続けられ、かなりの数のQSO成立に加え、移動局同士でのQSOや、遠距離からのカーチャンク成功情報などがtwitterに上げられるなどそれなりの運用実績を上げることが出来た。遠距離でのQSO成立例では富士山5合目、カーチャンク成功例では東京都自由が丘が最長だと思われます。神奈川県内では、各地でレピータの入管はある模様で、地域、バルーンの高さによってM1~M5に変化していた模様でした。

明らかになった空中設置型レピータの技術的課題

今回のようなバルーンレピーターに限らず凧、ドローンなどによって空中に特小レピーターを設置する構想はライセンスフリーラジオに留まらず、災害時の通信手段の確保という点においても成功すればかなりのアドバンテージとなる技術であると考えられる。しかし、今回の実験を通し、重大な技術的課題が発生することが明らかとなった。

・法令に従って設置する事の難しさ

これは今回のような支線を用いた形のレピータで大きな足かせとなる物であり、やはり60m以上にレピータを設置する場合に0.6×0.6mの旗を支線中央に設置しなければならないという課題は、風船の強敵である風の影響をもろに受けるうえ、支線が地面に対し垂直に上がらない場合、旗の設置点の高度が下がり、事故の要因となってしまう。これを解決する為には軽量で形状が変化しにくい旗の設計や、すぐに旗の位置を変化させられる留め具の用意が不可欠であると考えられる。

・レピーター本体の振動による激しい抑圧の発生

今回の実験において最もQSOの成立を難しいものとしたのが激しい抑圧の発生である。
今回使用したALINCO製のDJ-R100Dなどのレピーターは1本のアンテナでアップリンクの受信とダウンリンクの送信を行っている為か、激しい抑圧が頻発し、数秒間に渡りダウンリンクから無変調が流れることが多々あった。この現象山岳レピーターなどに遠距離からアクセスした場合にも起こりうるものであるが、レピーターの振動という状況が加わることによりさらに症状が悪化すると思われ、場合によってはアップリンクの変調が全くダウンリンクに乗らず、十数秒に渡って無変調が流れ続けるという事態も発生した。これはレピーターを空中に設置する計画において解決の必要がある最重要課題であると感じた。この症状はレピーターのアンテナを常に垂直に保つ設計や、レピーターの振動を低減させる機構を設けることで症状の改善が見込まれるが、どこまで低減できるかは要検証である。

まとめ

風船で特小レピーターを空中設置する実験を行ったのは恐らく日本初であり、活動的・技術的に見ても非常に魅力的で夢のあるものであり、得られた結果は非常に有意義なものであったと感じている。今回の実験運用の形態は実用的かと問われれば、答えはNOに近いものであったが、激しく変化するコンディションや、抑圧の影響によって、QSO成立の難易度はCB無線のEs交信よりも非常に高く、挑戦しがいのあるレピーターであり、ホビー的に見れば非常に面白いものであったのではないだろうか。また、地上60mの可視マップとQSO成立及びカーチャンク成功地点を比較すると可視圏外まで電波が飛んでいたことが良く分かり、人体や山肌などの影響が少ない事でより遠距離まで電波が届くのではないかと推察出来た。旗、風の問題が無ければかなりの遠距離交信が実現する可能性あることが容易に想像できるが故に今回の失敗が悔やまれるところである。
地上高約59mの可視マップ

最後に

・今回の運用では風などの影響により、風船の高度が上がらず、千葉、北関東方面までカバーしきれず申し訳ありませんでした。
・今回バルーンレピーターアクセスチャレンジして頂いた各局並びに現地協力していただいたかながわLE111局、遠距離受信Y氏のご協力ありがとうございました
・今回の実験はしずおかJG726局との共同実験でした。

動画版運用レポート


https://www.youtube.com/watch?v=0XJp5WXGpdo









 

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